『PELLE MORBIDA』を通じて考える未来
――これからのビジネスに問われていることとは?
ウエニ貿易の中核ブランドの一つ、『PELLE MORBIDA(ペッレ モルビダ)』のブランド担当である松岡さんに、現在のビジネス環境を踏まえ、ブランドのあり方、企業のあり方について話を聞きました。簡単にはモノが売れない時代だからこそ、問われているのは企業姿勢であり、その想いや考えをブランドで表現することだと松岡さんは話します。
目次
5万円ではなく、8万円のバッグが売れるという時代
─ 現在のビジネス環境について、どのように認識されていますか?
市場にモノがあふれていますので、よいモノをつくれば売れるという時代ではないですよね。ひと昔前の企画と言えば、モノづくりのほうに比重が置かれていましたし、当社としてもそうやって実現したよいモノを、百貨店やセレクトショップに卸していけばビジネスも成り立ちました。しかし、いまはモノづくりの企画も大事ですが、つくってからの企画はもっと大事。インターネットやフリマアプリなどにより新しい販売チャネルも増え、消費のパターンも変わってきています。この点で「売り方」「伝え方」というのをもっと深く考えていく必要がありますし、それを反映したモノづくりが重要だと認識しています。プロダクトアウトではなくマーケットイン。結局は、そういうことなんだと思います。
─ そうした現状を踏まえると、どんな取り組みが必要になってくるのでしょうか?
モノが売れない時代にあっても、例えば高価なハイブランドは売れています。富裕層が購入しているという側面はあるにせよ、ハイブランドに共通するのはブランドのヒストリーや商品のストーリーがしっかりしていること。ここをきちんと掘り下げていけば、モノは売れるということです。その証拠に『PELLE MORBIDA』では、通常5万円が相場のところ8万円へと引き上げ、代わりに選りすぐりの職人に依頼し、インポートの革で製作してもらったところ、単価が1.5倍にもかかわらず売れました。販売員が相場よりも3万円高いことの理由をきちんと筋道立ててご説明し、そこにお客様が満足してくださったことの結果であり、マーケティングの大切さを再認識させられました。
相対的に割高でも、長く使い続けられればサステナブル
─ ストーリーというのは、そういうことなんですね。
コラボレーションなども同様ですね。『PELLE MORBIDA』では、セイコーさんとのコラボ、バーニーズ・ニューヨークさん×トヨタ自動車さんとのトリプルコラボも実現してきました。前者では、セイコーさんの「アストロン」にレザーストラップを供給し、後者では「レクサス」のシートに使われている革でバッグを製作し、それをバーニーズ・ニューヨークさんの店舗とINTERSECT BY LEXUSで展開しました。これまで接点のなかったお客様に対し、各社とも「はじめまして」のご挨拶ができたという点で、「売り方」を考えるうえでの一つのヒントになりました。それに一連のコラボ企画には、副産物もありました。
─ どういうことですか?
コラボをすることで、自分たちのブランドカラー、ブランドイメージというものを見つめ直す機会となりました。『PELLE MORBIDA』はブランド立ち上げ当初から「メイド・イン・ジャパン」にこだわってきましたが、セイコーさんもトヨタ自動車さんも世界に冠たる日本ブランドであり、あらためて両社の歴史や文化に触れて、われわれもかくありたいものだと思いました。いまの時代、日本製品は安くないし、量もつくれないしといった具合に、もしかしたらネガティブ要素も多いかもしれませんが、そこを創意工夫していくことでストーリーを生み出し、ヒストリーを刻んでいくことができるのだと思います。それに、例え相対的に割高になったとしても、それを長く使い続けることができれば、それはサステナブルでもありますよね? 未来を見据えれば、とても大事なワードです。
─ たしかにCSV、SDGsへの取り組みが重視される世の中です。
他社さんのお話で素敵だなと思ったのは、香川は野球のグローブ(手袋)の産地なのですが、職人さんがどんどん廃業されているそうです。そこで同じ革製品ですし、いきなりの製品化は難しくても、財布やバッグをつくってもらうことで皮革を扱う職人の技、その土地の文化を継承しながら、地域経済を活性化できないかと取り組まれているそうです。こうした実現された商品にはストーリーが宿りますし、販売する意義も生まれます。そして、それを消費者がきちんと評価してくれる時代でもあります。これからの『PELLE MORBIDA』のあり方を考えるうえでも、とても刺激を受けました。
自社の利益と公共の利益を同時に追求していく
─ 今後、どういった活動を進めていきたいと考えていますか?
冒頭でもお話ししましたが、商品をつくる前とつくった後、ここを一つのストーリーとしてつなげること。そのためにブランド担当、営業担当、販売スタッフ、マーケティング担当、PR担当、EC担当が、そのストーリーをきちんと共有し、皆でベクトルを合わせていくことです。大手企業は組織も大きく分業制も徹底しており、体制として洗練されていますが、われわれが同じやり方で戦おうとしたところで無理が生じます。むしろ少数精鋭であることを逆手にとって、互いの職域にも足を踏み入れながら連携していくことが大切です。縦割りではなく、横のつながりを意識するイメージで。もともと自分の職域にとらわれず、自分の裁量でジャッジしながら仲間を巻き込み、スピード感をもってチャレンジできる環境が、ウエニ貿易の強みであり当社で働くやりがいでもあります。少なくとも私はそう考えていますし、後進に期待するのも「自分は営業だから」と勝手に枠をつくるのではなく、その枠を自ら広げていこうとする気持ち、姿勢です。
─ これから入社される人へのメッセージでもありますね?
その通りです。そして『PELLE MORBIDA』について申し上げれば、「メイド・イン・ジャパン」を追求することで海外にも輸出していく考えです。そこで直営店やオンラインショップをさらに強化することでブランディングに磨きをかけ、PRと連携しながらSNSなどを活用した情報発信を積極的に展開したいと思っています。そして、もう少し大きな話をさせてもらうなら、当社のCSV、SDGsに対する取り組みを率先していくようなブランドでありたいと思っています。自社の利益と公共の利益。これを同時に追求することで、ウエニ貿易自体のマーケティングにつなげていけたらと考えています。
アパレル企業での企画営業を経て、商品企画と営業の双方に取り組めるウエニ貿易に転職。現在は、『PELLE MORBIDA』のブランド担当として、マーチャンダイジングや営業を担う。今後は、時代に適った新しい販売チャネルや新しいブランドを探索しながら、社会や未来に貢献できる仕事を目指したいと語る。