百貨店市場で評価される販売戦略の極意
――日本橋三越に時計売り場をオープンした話
2014年9月より、新宿伊勢丹で時計ブランドの特設コーナーを設けているウエニ貿易。長年の実績が認められ、2020年9月には日本橋三越にも常設の時計売り場をオープンしました。オンラインショッピングなど非対面での手法も出現するなか、お客様に足を運んでもらえる販売企画が評価されている当社。今回は、百貨店ディビジョンマネージャーの杉山さんにお話を伺いました。
目次
百貨店市場に切り込んだ斬新なアプローチ
─ 新宿伊勢丹では2014年からファッションウォッチの販売をしているそうですね。
当時、ファッションウォッチを取り扱う百貨店はありませんでした。時計自体の取り扱いもほとんどなく、置いてあるのはインポートブランドのラグジュアリーウォッチか、置時計などの生活必需品ばかり。しかし、新宿伊勢丹でファッションを軸とした新しい時計の販売コーナーの立ち上げが決まり、ウエニ貿易に声がかかりました。ファッションビルなどではファッションウォッチの販売コーナーを設けるケースはありましたが、百貨店での出店事例は皆無。当社にとっても、もちろん未知の領域でした。
─ 初めての出店ながら、大成功したと伺いました。
販売スペースとして用意されたのは百貨店でもっとも多くの集約が見込める1階。そんなエリアに出店するということで、当時さまざまな企業が候補に挙がったと聞いています。なかでも、ブランドを複数抱えていて、老舗の大手企業でありながらフレキシブルな対応ができるという点でウエニ貿易が選ばれました。当社が初めて百貨店に出店したブランドは現在取り扱っておりませんが、LAMER COLLECTIONS(ラ・メール・コレクションズ)というブランドで、1週間の出店期間中に好成績を収め、その後も実績が認められ、SARA MILLER LONDON(サラミラーロンドン)やHENRY LONDON(ヘンリーロンドン)など複数のブランドのポップアップショップを出展しましたが、すべて1週間で目標以上の売上を達成。特にSARA MILLER LONDONは部門のポップアップ売上史上最高の驚異的な数字を残すことができました。
「ここでしか手に入らない」商品や体験の提供
─ ウエニ貿易には売り場づくりに欠かせない4つの観点があるそうですね。
前任企業から運営を引き継ぐ形で2016年から現在に至るまで、ファッションウォッチの販売コーナーはウエニ貿易が運営しています。数多くの出店を成功させて来た私たちが大切にしているのは、商材・商品企画、演出、告知、販売促進といった4つの観点です。お客様が商品に納得しなければ購入いただくことはできませんし、ただ商品を置いておくだけ、つまり演出がうまくいかなければ、お客様は売り場に来てくれません。告知がまったくなければ誰も集客できません。これらの要素が1つでも外れてしまうと、販売計画は失敗してしまいます。
─ 成功の秘訣はどこにあるのでしょう。
現場でお客様と直接やり取りをする販売スタッフとしては、販売促進つまり、フックが非常に重要なんです。説明できるポイントが商品の見た目や価格しかなければ、お客様とのコミュニケーションは成り立ちません。しかし、限定品やそこでしか体験できないサービスがあれば、話は変わります。たとえばHENRY LONDONは店頭でできる刻印サービスを実施。このキャンペーンがあるだけで、「お孫さんのお名前を刻みませんか?」「昔住んでいた街の名前を入れてみませんか?」と話を広げていくことができます。そこからお客様のバックボーンや趣向に触れることで、コミュニケーションを広げていくチャンスに恵まれるというわけです。単にモノを消費するのではなく、価値と価値の組み合わせを想像することが大切ですね。価値に複数の価値を掛け合わせることで商品価値は何倍にも膨れ上がります。商品自体も価値があるものですが、そこにどんな要素を掛け合わせていくのか。それが販売戦略へとつながっていくのです。
表面上の「かっこいい」だけで終わらない価値の提供
─ 日本橋三越にも2020年9月に販売スペースをオープンされましたね。
これまでの実績が認められ、三越伊勢丹のマーチャンダイジング室からウエニ貿易へ声がかかりました。その結果、9月30日から2021年3月まで、時計売り場をオープンすることに。出店場所は交渉し、多くの人が行き交う入口付近に決定しました。百貨店の集客率は、一般的に地下の食品コーナーや最上階のレストランを除いて1階から1つ階が上がるごとに集客率が30%ずつ落ちていくといわれています。1階はジュエリーや化粧品、バッグ・小物、婦人雑貨等が置いてある人気の高いエリア。エスカレーターのすぐそばという好立地で、たくさんのお客様の流入が見込めます。当社は出店場所にもこだわっており、売上上位の百貨店にしか出店していません。どこで何を売るのかも大切だと感じているためです。
─ 今後の展望について教えてください。
今後もファッションウォッチの販売強化に注力する予定です。メーカーとしての動きはもちろん、札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、福岡といった各地域の1番店でポップアップショップを展開していくことで、ブランドロイヤリティをあげることができると考えています。現在も半期ごとにマーチャンダイジングを組み、百貨店に取り組みや戦略を共有。戦略がない企業は淘汰されていきますので、今後も価値と価値の掛け合わせや価値を創造していくことに注力しながら表面上の「かっこいい」だけでは終わらない大きな価値の提供をし続けたいですね。
新宿伊勢丹、日本橋三越等の百貨店での店舗運営プロジェクトを手掛ける。商品企画、店頭演出、広報、販売場所の交渉まで包括した販売戦略を練り、ブランドロイヤリティの向上に貢献。